乙女の密告

anne赤染晶子さんの芥川賞受賞作「乙女の密告」が文庫になったので読んでみました。
何より題名に魅かれ、副題のような「誰がアンネを密告したか」にも興味を持っていました。
現代の女子大生と「アンネの日記」のアンネ・フランクのシンクロ。何とも不思議な設定です。
女子大生の日常で起きる人間関係のもつれと、アンネ・フランクの身に起きた出来事を、「奇跡の邂逅」と考えるのには、賛否両論がありそうですが…。
この作家にはもっと違う意図があるようにも思います。
劇画的で、戦前のような女学生の描写も、差別、嫉妬、憎しみという人間の根底にある、シンプルな感情を表現する手段であるような気がするのです。
そして隣人を「他者」と名前さえ与えずに排斥する行為は、いつでもどこでも行われているということです。

アンネたち隠れていた8人を密告した人は、多分キリスト教徒で、報酬に一人7.5ギルダー、8人分60ギルダーを受け取ったという記述は衝撃的です。
「戦争が終わったらオランダ人になりたい」と願い、それでもユダヤ人であることを自覚し、ひとりの名前ある人間であることを主張したアンネ。
読み終わると、確かに今までアンネに抱いていた感情と別の気持ちが沸いて来るのでした。