母の衣装ダンスの中から出てきた木製のハンガー。
祖父がやっていた紳士服の仕立て屋のロゴ入りハンガーでした。
祖父の家に遊びに行くと、2、3人の職人さんと祖父が働く部屋があり、そこには子供は入ることが出来なかったことを、懐かしく思い出しました。
ハサミ、針、アイロンなどがあったからですが、明るい蛍光灯の下の大きな作業台、見たこともない物があふれている部屋は、子供の好奇心をさそいました。
その内、祖父の家に遊びに行くこともなくなり、後を継ぐ人の居ない紳士服店は閉じられました。
祖父は何故か、インドネシアの男性が正装する際に身につける帽子(ペチ)がお気に入りで、外出する時は必ず自作のペチをかぶりました。
一緒に暮らしたことはありませんが、思い出の祖父はおしゃれで物静かな優しい人です。
新宿新都心と共に、祖父の家はあとかたも無く消えてしまいました。
今、祖父が生きていたら、色々と聞きたいことがあったのにと思います。
自分が歳を重ねるにつけ寂しく思う事は、人生の先輩に話しを聞く機会がめっきり少なくなったことです。