最新作『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』。久しぶりに村上春樹の世界を堪能しました。
16年前に友人グループから一方的に決別された主人公が、自らその真相を究明し向かい合わなければ前に進めない事を理解し、巡礼のように昔の友人たちを訪ねます。
理不尽な出来事に対して、他者への怒りより、自分に原因あるのではないかと内省に向う姿が痛々しく感じました。
色彩を持たないイコールどんな色でも受け入れ、受け入られることを本人は気がつきません。
しかしそれこそが、フィリップ・マウロウの「強くなくては生きられない、優しくなくては生きる資格がない」を地で行く村上春樹の描くナイスガイの主人公です。
自分に自信を持つ、自分を大切にする、その上で自己を客観視する、三つのバランスをとることは至難の技です。
昔読んだ銀色夏生さんのエッセイに「相手の中に静かな湖があるか無いかを見る」という文があったのを思い出します。
静かな湖とは、自分自身の考え、感情、行動を見つめる冷静さではないかと思います。
そして、私もその湖のある人に心魅かれ安心するひとりです。
(絵はエンネル、ジャン=ジャック「ニンフ」)